類聚メモ帳PART2

更新はすごい不定期です。

最恩寺(南部町)

最近、社寺を訪れる際、建築に注目しています。特にその建築が古ければ古いほど、遠い遠い過去からそこにあり続けた歴史の息吹を間近に感じたいと思うのです。 さすがに飛鳥文化とか天平文化とか、そういうレベルの建築は京都とか奈良とかに行かなければありません。しかし、中世くらいまで下ると、割合関東とその周辺で散見されるようになります。そして、この中世期ぐらいの古建築がどのようなものがあるか、手っ取り早く知る手段として重要文化財の一覧を見るという方法があります。 この情報は自治体のホームページ等で容易に知ることができ、その結果から気になる古建築をピックアップしていきました。 IMG_1325.JPG

 

さて、その結果、古建築の中でも社寺建築で昨今、私が注目している禅宗様の建物で、一つ気になるものを見つけました。 それが山梨県の南部町というところにある最恩寺の仏殿です。

南部町は、南巨摩郡に属する町で、山梨県の中でも最南部に位置します。 身延の南方にあたりますが、たぶん生活圏はほとんど静岡県でしょう。 甲府よりも、身近な都市はおそらく富士や富士宮なはずです。 そんな山間の静かな町にある最恩寺は、臨済宗妙心寺派の古刹で、ここになんと中世(14世紀)の禅宗様建築の仏殿が残っているというので、さっそく行ってみることにしました。

 

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最恩寺は、南部町福士の集落はずれにあった。 IMG_1279.JPG

 

福士は山間の静かな集落だが、目下、中部横断道の建設のためか大型ダンプが集落内の道路を行ったり来たり。あちこちに紅白の旗を持った誘導員が立っている。 南部町は地名の通り、あの盛岡の南部氏の祖先発祥の地である。 なお、福士集落は現在は南部町であるが、これは2003年に隣接する南部町と合併したためで、それ以前はここは富沢町の町域であった。

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近くでお花の手入れをしていたおばあさんに「ちょっとお寺の写真を撮らせていただいても良いですか」と声をかけると、「どうぞ」と快く返事をもらったので、さっそく撮影スタート。一声かけた方が、人の目を気にせずに撮れる。 境内は広くはなく、入ると右に青い瓦屋根の本堂、左にさっそく件の仏殿があった。

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こちらがその仏殿。 IMG_1317.JPG

この角度からだと逆光が辛く・・・これはいかんともしがたかったが、至極残念。 正面も逆光の影響が・・・ IMG_1315.JPG

こちら側に回ってようやく順光だが・・・ IMG_1311.JPG

光の関係で上手く取れなかったのが残念ではあったものの、小ぶりな仏殿は息を呑む美しさであった。 禅宗様の仏殿というと、どうしても有名な円覚寺舎利殿や、東村山・正福寺の地蔵堂のような大ぶりな堂を想像してしまうが、以前訪れた清白寺の仏殿と同様、山梨にはこの小ぶりな禅宗様の仏殿が多い。 きめ細かい禅宗様は、実はこの小ぶりなサイズこそがもっとも美しいように思われる。

解説板

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重要文化財
最恩寺仏殿

昭和二十八年三月三十一日指定

当寺は、長久年間(西暦一〇四〇年)後朱雀天皇の御代の開創にて、本町最古の建立と云われ天台宗に属していたが後に甲斐源氏武田の帰依を受け臨済宗に転宗し現在に至っております。
この仏殿は、中国宋時代の仏殿建築の手法をそのまま移して建てたもので典型的な唐様式で一名禅宗建築とも呼ばれ禅の思想をよくあらわしております。特徴としては、身舎背面柱から「もこし」前面柱に大虹梁を渡し大瓶束を立て、又軒には垂木を上下層とも用いていなくそのため大変美しく見られる。
建立されたのは、室町時代の初期で応永二年(西暦一三九五年)と云われ武田氏の寄進にて仏殿、方丈、庫裡等禅宗寺院としての伽藍を整備されたが貞享二年七月火災にあい仏殿だけが残り当時をしのぶことができる。

 

室町時代初期の建築ということで、昭和28年(1953)に内部の厨子・棟札とともに国の重要文化財の指定を受けている。 江戸時代に火災に遭い、往古の伽藍は仏殿のみとなってしまったが、大変貴重な文化財だ。 IMG_1310.JPG

解説板のところにいたクモさん。 IMG_1283.JPG

最初、コガネグモと思ったらぶら下がり方が前傾姿勢なだけで、普通のジョロウグモだった。 気づけばもうジョロウグモもこんなサイズになっている季節だった。

 

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細部を見ていこう。まず特徴的なのは、垂木がない!ということだった。 IMG_1299.JPG IMG_1293.JPG IMG_1330.JPG

ずいぶん質素であっさりとした印象を覚えるが、シンプルでこれはこれで良い。 また、これまた禅宗様で特徴的な花頭線を持つ扉や花頭窓も美しい。

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弓欄間(ゆみらんま)の美しさも、禅宗様を特徴づける。芸が細かい。 IMG_1329.JPG IMG_1302.JPG

板壁である。これは当たり前か。 IMG_1298.JPG

最後は木鼻と詰組。 IMG_1300.JPG IMG_1331.JPG

上層が小ぶりで、下層が大きいので正面から見ると、やや寸胴な印象を受けるが、斜めから見るとそうでもない。 少し離れて屋根。現在は銅葺きのようだ。過去はどうだったかわからない。

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鬼瓦、懸魚(げぎょ)、大瓶束(たいへいづか)。もっとズームすればよかった・・・ IMG_1326.JPG

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しかし、建物の美しさはもとより、この中世の建築が地方の静かな山間の集落に残っているということ自体に大変感銘を受けた。 個人的には国宝クラスだ。 非常に良いものを見させてもらいました。 禅宗様は気になるが、関東で中世期のものであと未見なのは、東村山の正福寺の地蔵堂のみかな。 あとは車で行ける範囲だと岐阜県に気になるものがある。 ずいぶんと長距離の遠征になるが、見てみたい。 下関にはなんと鎌倉期の禅宗様建築があるということで、これも見てみたいが・・・

(続く)