類聚メモ帳PART2

更新はすごい不定期です。

山形へ行ってきた1(黒鳥観音のムカサリ絵馬)

さて、二日目は車に乗り込むと、仙台から作並方面へ国道48号線を進みました。山を越えると、山形県東根市へ着きます。私たちはこの地にある一つの観音堂を目指しました。 私は最近、祈願寺というものに興味を持っています。祈願寺というカテゴリーは、たぶん正式にはないと思うのですが、これは私のなかで檀家さんを持つ普通のお寺ではなく、(檀家に関わらず)庶民が祈願目的で参詣する霊場的なお寺と定義しています。どういうものを言うか、具体的には説明が難しいのですが・・・ それはともかくとして、東根市にある小さな観音堂「黒鳥観音」へ目指しましたが・・・

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迷ってしまい、用意してきた地図に記した地点を通り過ぎてしまいました。 曲がり損ねてしまったのです。 そこで小道に入ってUターンし、スマホと印刷してきた地図を頼りに曲がる地点を探します。 友達に運転してもらって、私は必死に曲がる場所を見極めていました。 こういう時は運転する係りとナビをしている係りが分かれていると非常に楽です。 結局、なんとか曲がる場所がわかりました。 これも何もかも仙台の友達がいてくれたから。 本来は私の関心事項に対しては何も興味を持っていないはずの彼ですが、いつも私のお供でこういった寺社仏閣巡りにつきあってくれて、本当に感謝感謝です。 ともあれつきました。入口は対向車がきたらまず離合不可能な狭い山道で不安になりましたが、着いた先にはちゃんとした駐車場があって、トイレや展望台まであります。

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黒鳥観音堂最上三十三観音霊場の19番目の札所(ふだしょ)です。 IMG_6316.JPG

音霊場というのは、簡単に言うと三十三の各観音様に巡礼して願掛けをするものです。巡礼者は巡礼の証として札をお堂に納め、ご朱印を貰います。札を納めるので、そのお堂を札所(ふだしょ)と言います。 最上三十三観音霊場山形県東部を中心に位置する三十三の観音霊場を巡るものです。 これまでの私の旅の中でも坂東三十三観音慈光寺秩父三十三観音音楽寺を訪ねていますが、一番誰でも知っている霊場と言えば、お遍路で有名な四国八十八か所ですね。ここだけ観音霊場ではないのですが。 ともあれ、その観音堂に入ってみると・・・

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なにやらおどろおどろしい世界が広がっています。【クリックで拡大】 IMG_6313.JPG

壁や天井一面に打ち付けられた巡礼札・・・いや、それよりも目を引くのは・・・【クリックで拡大】

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絵馬です。絵馬といってもただの絵馬ではなく、昔の大型絵馬です。

【クリックで拡大】

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これはムカサリ絵馬といいます。【クリックで拡大】 IMG_6303.JPG

山形の、それもここ村山地方の習俗で、結婚せず死んだ子たちの供養のため、「あの世」での結婚式の様相を描いて仏堂に奉納したものです。【クリックで拡大】 IMG_6305.JPG

個人情報満載なので、あまり大きくはしませんでしたが、クリックすると拡大しますので、どういうものかご覧ください。 本尊様の厨子よりも、ずっとインパクトのある絵馬の海。【クリックで拡大】

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さながら「ムカサリ絵馬」堂です。【クリックで拡大】 IMG_6307.JPG

なぜかTシャツが奉納されていました。これも意味がありそうです。【クリックで拡大】

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「ムカサリ」とはこの地方の方言で「婚礼」の意味だそうです。 相手は架空の人物を描きます。たとえば死者が男性なら架空の花嫁を、死者が女性なら架空の花婿があてがわれます。 結婚せずに死んだ子の供養ということで、悲哀がこみ上げる思いもありましたが、こういっては悪いですが、はっきり言っておどろおどろしい習俗です。 批判を覚悟で言えば気味が悪い・・・ときっと思ったのでしょう。友達が早く出たがっていたのと、堂内になぜかカメムシが大量発生していたので、そぞろと堂内を後にしました。

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ムカサリ絵馬については、「珍寺大道場」の小嶋独観さんが非常に興味をもたれていて、おそらく在野の方の中では一番詳しいと思われるので、詳しいレポートや考察等は小嶋さんのページをご参照ください。 「ムカサリ絵馬」で検索 「珍寺大道場」で検索 「珍寺大道場 ムカサリ絵馬」で検索 ムカサリ絵馬は、民俗学でもよく取り上げられますが、それほど古い習俗ではなく、少なくとも明治以降に生まれた習俗といいます。そうなると、なぜそんな習俗が生まれたのか気になるところです。日本人の生活や価値観の変化が関わっていそうな気がしますが、そうなるとなぜ全国的な習慣にならず、この村山地方だけに集中して存在するのでしょうか。そこに祈願寺との関係は何かヒントになりそうです。このことはすでに小嶋さんが触れられていますが・・・ 黒鳥観音の入り口には、鳥居があります

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お寺なのに鳥居。これはまさに神仏習合の名残でありましょう。 実は去年、すでに私は天童市の若松寺でムカサリ絵馬を見ています。はじめてみた時の衝撃はなかなかのものでしたが、今回も衝撃はかなりのものでした。ある程度は「珍寺大道場」で見て知っていても、生でみる衝撃というのはやはり違います。 私たちはこうして黒鳥観音を後にすると、次の目的地へ向かいました。

(つづく)

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