東根市の黒鳥観音を出発した私たちは、そこから北へ向かい隣の村山市の小松沢観音堂を目指しました。小松沢観音堂も最上三十三観音の一つで、20番札所(ふだしょ)にあたります。ここにもムカサリ絵馬が多く奉納されているとのレポートがありました。 ムカサリ絵馬とは前回説明した通り、山形県村山地方の風習で、結婚せずに死んだ人のために、あの世での結婚式の様子を描いた絵馬のことです。この絵馬はお寺の仏堂に奉納されるのですが、古い習俗ではなく、明治時代頃から始まったようです。
さて、途中で小松沢観音堂の案内看板があったので車を進めていくと・・・
しばらくすると、入口らしき石の鳥居がありましたが、駐車場らしきものはありません。 しかたがないので、しばらく進みましたが、狭い道を不安なままずっと走ってきたので、このままUターン不可能な林道に入ってしまったらどうしようと思っていると・・・ こんな感じの広い道に出ました。
駐車場の情報は事前に調べきれなかったので、私たちは万一のことを考えてここに車を置きました。
かなりの広さだったので、たとえここに車を置いても、すれ違いは可能だろうと判断したのです。 そして、そこからスマホの地図を頼りに歩いて観音堂を目指すことにしましたが・・・ これが大失敗。結構な距離がありました。
えっちらおっちら登っていくと・・・
目的のお堂の門が見えました。
小松沢観音堂に仁王門についた時は、さすがに息が切れました。
大きなわらじが奉納されています。
観音堂です。
いよいよ中に入ってみると・・・
相変わらずすごい数の巡礼札が・・・
天井にもあります。
ここに表れる幸せは、結婚
そして家族を持つこと。
当然、これが仏教の教義に当てはまらない民間習俗であることは自明です。
写真の帽子のように個人の遺物を奉納する習慣はわりとどこにでもありますが・・・
率直な感想は観音堂は死の世界そのものでした。
ただでさえ、人里離れた山奥にある寂しい観音堂。 さらにその中に広がる世界は、まさに冥界のようでした。 境内にはこれも山形の習俗、後生車(ごしょうぐるま)が立っていました。
このあと車まで戻り、天童まで出ました。そこで回転ずし屋に入ってお昼ご飯にお寿司を食べて(私はお寿司が大好きなのです)はじめて、自分は生きているんだと実感しました。それだけ小松沢観音堂は不思議な世界でした。 ムカサリ絵馬の習俗は、本当に不思議です。だけれども感覚としてはわりと誰でも同じものを持っていると思います。たとえば青森県には婚礼人形という習俗があります。これもやはり結婚せずに死んだ子の花嫁として人形を奉納するものです。私が見たことがあるもので、印象的だったのが靖国神社の遊就館に展示されていた日本人形でした。若くして、結婚せずに戦死した子のためにお母さんが奉納したものですが、やはり類似する思いがあります。 おどろおどろしいように思えるムカサリ絵馬も、率直にせめて死後の幸せを願う純粋な気持ちの表れなのです。ここからは人が標準的に考える幸せのかたちと、それが成されなかったものたちへの祈りが見えてきます。同時にこの習俗には近現代社会の家族構造や祖先祭祀の問題とも大きく関わっているような気がしました。
(おわり)
- 作者: 松谷 みよ子
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 1976/02
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- 作者: 赤木 由子
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