類聚メモ帳PART2

更新はすごい不定期です。

長谷寺(桜井市)

新婚旅行の記事を書き終えぬまま、用意しておいた記事が予約投稿されていたから、ちょっと新婚旅行の記事は中断。

長谷はせとか清水きよみずとかの霊験あらたかな観音様には人を何かの縁を結びつける力があるらしい。ただし、それは必ずしも良いものとは限らないようだが…

例えば「一心二河百道いっしんにがびゃくどう」の物語の中でそもそも姫が清玄と出会ってしまうのは、清水の観音への参拝の時のことであった。上田秋成の小説『雨月物語』の中の名作「蛇性の淫」で、主人公の豊雄が真女児と再会してしまうのは、大和の長谷観音への参拝道中にある石榴市つばいちでのことである。かと思えばわらしべ長者の物語は大和の長谷寺の門前からお話がスタートする。

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…ということで霊験あらたかなことで往古より名高い長谷観音に参拝せんと、秋の休日を使い、遥々また奈良までやってきた。

 

相変わらず仕事や職場も不調。迷える私に何か観音様がきっかけを与えてくれればと思ったのだ。

 

…というのはつけたしの理由で、本当は昨年以来はまっている折口信夫の話を聞いている中で、折口がシンパシーを覚えたという江戸時代の国学者・釈契沖の事跡を辿ろうという趣の方が強い。

 

本当は折口が自分のルーツを求めて向かった大和への旅での重要地点である飛鳥坐神社をはじめ、明日香村へ行く予定であったが、この時はそれよりも契沖の長谷寺、そして室生寺への魅力がまさり急遽予定変更をしたのだ。

 

なにしろ昨年秋の叡福寺(大阪府太子町)、當麻寺の旅でずいぶん奈良に惚れこんでしまった私は隙あらば奈良に行きたいと常に思っていた。都合よく平日休みが2日続けてとれる日があったので、移動時間の節約のため、仕事終わりにそのまま新幹線に乗り、新大阪へ向かった。

 

新大阪の格安ビジネスホテルで一泊。翌日は平日であったが、通勤客に紛れて大阪環状線に乗って、鶴橋駅から近鉄大阪線に乗り換え。

急行でひたすら下り、10時20分頃、長谷寺駅奈良県桜井市)へ着いた。

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近鉄の幹線の駅ではあるが、何しろここは奈良県の郊外。ローカル線の感がする駅だ。

しかし、平日にも関わらず長谷観音への参拝客は意外にも多かった。

 

駅前にはさっそく「総本山長谷寺」の石柱がある。

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この駅から長谷寺までは徒歩で20分少々ある。なお、地名としては「初瀬」であるらしい。「泊瀬」とも書き、「はつせ」とも読む。

だいたいなんで「長い谷」と書いて「はせ」と読ませるのか。謎はつきない。

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長谷寺までの参道は門前町を形成しているが、それにしても鄙びた感じがする。悪くはないが、昔話の中に出てくる長谷の観音様はもう少し賑やかなイメージだが…

平日だからか?

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それにしてもこの狭い道を結構車がビュンビュン飛ばしてやってくる。おっかない。

 

寺に近づくにつれ、次第に門前町も賑やかになってくる。

そうしているうちに長谷寺の門前に着いた。

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これが仁王門。重要文化財の指定を受けている。江戸時代のものらしい。

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この門前は昔話のイメージっぽい。人も賑やか。今も昔もこうして全国から参拝客が来れば、いろんなものと結び付けられる、縁が生まれる、というのも納得できる。

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この扁額は勅額で後陽成天皇の宸筆だとか。

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そして、長谷寺と言えばこの仁王門から続く登廊であろう。

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仁王門とともに重要文化財の指定を受けている。やはり近世の建築のようだ。

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中の雰囲気もいいが、途中から下を見下ろすとこれもまたいい眺め。

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途中、藤原俊成と定家の塚があるという案内板があったので、登廊を外れて、そちらに歩いてみる。

 

やがて「二本の杉」というのがあった。

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案内板があった。

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謡曲「玉鬘」は源氏物語玉鬘ノ巻に拠ったもので、初瀬詣の旅僧の前に現れた玉鬘の霊が、僧を長谷寺の“二本の杉”の下へ案内し、この杉の下で亡母の侍女右近とめぐりあった話を述べるという物語になっている。
玉鬘は、光源氏と契り生霊にとりつかれて死んだ夕顔の娘で、故あって筑紫から舟で大和に至り長谷へ祈願のため来たところ右近と巡り合い母の死を知るわけである。長谷寺の観音信仰は、そのような願いを示現してくれるというので王朝時代から盛んだったという。
謡曲史跡保存会

やはりここにも長谷観音における出会いの物語が…

 

ここから少し下ったところの斜面に俊成と定家の親子の塚があった。

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中央に五輪塔。そこに「藤原定家 塚」と書かれた案内板がある。

その右わきに「藤原俊成 碑」とある。

左には何も書かれていない。

見たところ、中央の「藤原定家 塚」は五輪塔、両脇は板碑のような形をしているが…

どちらも長谷寺を詠んだ歌に由来して作られた供養碑らしい。

 

登廊に戻る。

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観音堂(本堂)まではあと少しか。

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それにしても紅葉が美しい。この登廊にとてもよく似合う。

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錦秋の紅葉を見ながら上がっていくと…

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やがて本堂が見え始めた。

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清水寺と同じく懸造になっている。

 

国宝の本堂。この向こう側には高さ約10mの巨大な観音像が待っている。

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堂内は撮影禁止。

ちょうど法要中で厳かな感じの中での拝観となった。

長谷観音はプレーンな聖観音像や巨像にありがちな千手観音像ではなく、十一面観音である。事物がお地蔵さんが持っているような錫杖であるところに特徴があり、各地にある長谷寺の観音像もこれにならっている(鎌倉の長谷寺等)。

現在の像は天正7(1579)年の再興像で、木像で高さは三丈三尺六寸(1018.0cm)。

言うまでもなく同寺の信仰の中心となる存在である。

 

まさに見るものを圧倒し、時代を超えて人々に形容できない神秘的な雰囲気と霊験を感じさせる観音像の御顔とその立ち振る舞いもさることながら、本尊の向かって右側に脇侍として控える眷属の難陀龍王の立像が極めて秀逸で必見である。

本尊よりも古く鎌倉時代の作品であるという。

左の脇侍は雨宝童子の立像。こちらは本尊と同時期であるという。神仏習合では伊勢神宮の神、天照大神と同一視された(三重県伊勢市朝熊山の金剛証寺にも祀られる)。

 

普通、観音の眷属は二十八部衆が多いが、この組み合わせは初めて見た。特に難陀龍王八大竜王の一つだが作例は少ない。雨宝童子も同様。

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国宝の本堂。懸造であることも併せて、礼堂と正堂の組み合わせから見て清水寺っぽい形式である。

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「清水の舞台」ならぬ「長谷の舞台」。近世初頭(慶安3(1650)年)のものとは言え、なかなか巨大な建造物だし、それを支える懸造だし、とにかくすごい!

こりゃ、国宝だわ…

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まったく関西はこうやって当たり前のように国宝建築がありやがる。

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紅葉の美しさもあわせて、まさに時を超えた魅力を持つ寺であった。

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五重塔。これは戦後の建築。もともとあったのは三重塔だったが、明治期に落雷で焼失とのこと。

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塔の反対側に三重塔の跡が残っている。

 

また期待。できればこの紅葉の美しい季節に…

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ちょうどお昼になったので、門前の土産屋で奈良の名物三輪そうめんの「にゅうめん(温かいそうめん)」とまつたけご飯を食べた。

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予定より1時間早く参拝を終えた。

食事が出てくるのを待っている間、インターネットで調べていると、次の室生寺へ一本早い電車に乗れることと、それに接続するバスがあることがわかった。

というわけで手早く食事を終えると、参道を抜け、再び長谷寺駅へ向かった。

(おわり)

次は室生寺へ。