上野村に行った時に寄った旧黒澤家住宅。実は今、書き物をしていて山村の旧家について、いろいろ知りたい、というかアイディアを得たいということもあって、行ってみたのだ。 旧黒澤家住宅は、楢原という村の西部の集落にある。関東に徳川氏が入部して以降、このあたりは山中領という幕府直轄地になった。黒澤家はこの山中領の大総代として、また幕府によって設定された御林の管理人も務めた村の有力者であったという。そんな黒澤氏の旧宅がここである。
駐車場は実は隣接する地に用意されていた。 それを知らず、私は川を挟んで反対側の第2駐車場に車を止めてしまった。
第2駐車場は村の駐車場としても使われているようだ。村のスクールバスが置いてある。
入口。立派なもんだが、屋敷地全体は案外ごじんまりしている感もある。
解説板
近世期の山村集落の貴重な旧家の保存例として重文指定を受けている。 なお、この黒澤家かどうかはわからないが、上野村の黒澤さんと言えば、日航機が御巣鷹の尾根に墜落した事故(1985年)当時、上野村の村長を務めていた黒澤丈夫氏という人物がいる。 戦中は海軍の軍人として、中国や南方戦線で航空隊のパイロットとして活躍。 戦後、復員して上野村の村長を1965年から2005年まで10期40年務めた。 村政の改革や、名物のイノブタによる産業振興もさることながら、日航機墜落の際には、元軍人らしいリーダーシップを発揮し、救助隊、日航、遺族の三者から信頼された名村長であったようだ。
全景
いかにも山村の旧家ではあるが、その建物はかなり巨大である。 木材は豊富とは言え、この山奥で、しかも19世紀半ば頃の建物であることを考えるとなかなか圧倒される。 そして二階を養蚕に使う切妻造の建物は、どこか白川郷や五箇山で見た農家を思い起こさせる。 ただし、屋根は板葺きであるのが、いかにも山村、そして関東らしいね。 おじいさんがいて、見学料300円払う。
おじいさんがスイッチを入れると、家全体の照明が灯り、放送によって解説が流れる仕組みだ。 居住スペースの一階は土間、広い居間と、あまたの部屋で構成されている。
客間の多さはかなり特徴的。これは幕府の代官がやってきたための部屋なんだとか。なるほどね。 それをつなぐ畳敷きの廊下も珍しい。
また、来客の階層に対応した3つの玄関も特徴的だ。
1階、居間で目を惹くのはこの神棚。
放送の解説で聞くまで、これが神棚だとはわからなかった。 こんな神棚、今までみたことない。 史料が若干展示されている。
年貢の割り付け帳であった。内容が興味深いが、読み込めてはいない。
こんな山村では米もあんまりとれないだろうに。 いったい村高はどれほどなのか・・・ だけど、米がとれないから貧しい村って考え方が誤りなのは、すでに網野善彦氏などが言っている通り。 米のとれない山村でも、案外林業や養蚕など稲作以外の産業で米作中心の平野部の村より豊かな場合もある。 2階はかつて養蚕に使っていた広々としてスペースとなっている。現在はパネルを使って往時の農業や民具などの展示が行われている。
山がちで米があまりとれない上野村では養蚕と製紙(和紙の生産)が重要であったようだ。
面白いものを見つけた。
これは養蚕の神様(絹笠明神)。
手に桑の葉っぱと、蚕卵紙(蚕の卵を産み付けた神)を持っているところがわかりやすい。 群馬県の今の前橋や富岡といった養蚕、製糸が盛んであった地域の旧家にこの神様がよく残されていて、場所によっては展示されていることをインターネットで知っていたが、実物を見るのは初めてであった。 ちょっと感動。 もういっちょ、面白いのはこの唐箕。
唐箕とは脱穀したお米から籾殻などのゴミを風を使って飛ばす器械である。 まあ、唐箕なんて各地の民俗資料館にゴロゴロしている。 そんなに珍しくはないのだが・・・ 「昭和廿参(八?)年拾月吉日新調」とある。
「廿」の次がよく読めないのだが、他の部分を見るとたぶん昭和23年と書いてある。 昭和23年・・・1948年・・・戦後である。 教科書なんかで、唐箕は江戸時代の農具だよねーという知識がある人にとっては、戦後も普通に使ってた、なんて知ったらちょっとびっくりだろう。 考えてみたら当たり前なのだが。 しかもさらに調べてみると、唐箕って現在も売っているし、使われているらしい。 本当に農業に無知でダメだわ・・・ 鬼瓦が展示してあった。
なお、この家、先に述べた通り、屋根は板葺きだが、風対策で石が置いてある。
板葺の石置き屋根で、これもある貴重だ。何しろ高い屋根の上のことなので、実物を見ることはできなかったが、近世期の住宅が本当によく保存されていると言える。 たった300円でなかなか楽しめるところであった。
ちなみに帰り際、ブラブラ外の写真を撮っていたら、おばあちゃん(たぶんさっきのおじいさんの奥さん)が追いかけてきて、飴をくれた。 このおばあちゃんに限らず、日本中のおばあちゃんはたいてい飴をくれるが、これはいったいなぜだろう・・・? ・・・と思いながらも、いかにもおばあちゃんがくれそうなパイン味のキャンディーは、とってもとっても甘くて、帰りの車中で舐めながら帰りました。 おばあちゃん、ありがとう! また、来るよ。上野村。 この小さな小さなのどかな山村が、合併などせずにいつまでも上野村であって欲しいと思う旅でした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
上野村 おまけ 上野村の名物、猪豚関連のものをいくつかお土産で買ってきたが、そのうちの一つ、猪豚カレーを食べてみたよ。
パウチのレトルト。湯せんをする。
どれどれ・・・
うまい!
カレーそんなに好きじゃないけど、これはおいしかった。 まぁ、高かったからね。 本当は現地で食べたかったが、道の駅のレストランがしまっていたもんで・・・ 別に買った猪豚フランクもなかなかジューシーでした。
(おわり)
- 作者: 網野 善彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1999/10
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- 作者: 網野 善彦
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