・人や家畜を襲う⇒“赤ずきん”といった西洋の童話=人を騙したり、襲う悪者
・土葬地の風習 “オオカミハジキ”“イヌハジキ”“メッパジキ”
※狼が新墓を掘り起こして、死体を食うのを防ぐため、墓の周りに割竹を廻らせて、狼が一方を掘ると、弾けるように作った仕掛け。(国語辞典にも載っているので、かつては全国的な習俗?)
⇒実際に狼は死体を食べるのか?ここに出てくる狼や山犬は“想像上の妖怪”とする考えも(岩田重則『お墓の誕生』、岩波書店、2006年、87頁)。
◎良いイメージ
・関東・中部における狼信仰 秩父の三峰・宝登山・城峯 (長野県)山住神社 (青梅)御岳など・・・ 山岳信仰と修験道の神社における神様の眷属としての狼
・狼の勇ましさ=火事・盗賊・狐憑きから人を守る、払う
・三峰信仰をはじめとする農民の信仰⇒農作物に害をなす獣をオオカミが追い払う
◎悪い?良い?イメージ
・民話によくある「送り狼」の話
妖怪、夜の山道で人のあとをつけ、その人が転ぶと襲って食う。無事に下山して、お礼を言うと帰っていく
・(別話)逆に狼が群狼から旅人を守ってくれる…
⇒全国的な話…どこにでもある
⇒転じて親切をよそおって若い女性を送り、機会があれば襲う男をそう言う
この通り、オオカミには人や家畜、農作物を守ってくれるというイメージと、逆にそれと正反対の人や家畜を襲うというイメージがあります。 オオカミという動物本来の性質からしたら、人や家畜を襲うということは実際にありそうです。土葬地のメッパジキの習俗や、送り狼に至っては妖怪と化しています。 民俗に登場する動物は、オオカミに限らず、みな両面性を持っています。 キツネ、猿、鳥、そしてオオカミ。すべて神様の眷属としても登場しますし、一方の世界では妖怪として登場します。キツネは稲荷神社の眷属でもありますし、オサキキツネやクダキツネといった妖怪でもあります。猿は日吉神社のお使いですが、ヒヒや猿神といった娘をさらってしまう(人身御供)妖怪でもあります。白鳥は蔵王神社の、鳩は八幡宮の、カラスは熊野神社のそれぞれお使いですが、鳥系の妖怪もまたたくさんいます(ヌエや夜雀)。 私たち日本の文化では、こういった動物は神聖なものとして扱われたり、不気味な妖怪になってしまったり、地域と文化によっていろいろごちゃまぜな信仰と伝承が混じり合っていることがわかります。 (入ってみたかった三峰山博物館は、臨時休館中でした・・・) それはともかくこの秩父を取り巻く山々では、オオカミが農民の信仰を集めました。 この信仰の篤さは参道を歩けばわかります。 このように参道にびっしりと建てられた石碑は・・・ 各地の三峰講が建てたものです・・・ 三峰講とは、簡単に言うとその地域で三峰神社を信仰する人たちが集まったグループです。 グループのうち代表者が三峰神社にお参りして、お札をもらってきます。 そうすると、そのお札は50戸を守護するパワーがあるとされ、50戸が三峰講組織の単位となりました。 こうした庶民パワーに支えられた三峰信仰は、江戸時代後期からはじまり、関東甲信越を中心にかなり広まりました。そして、現在でもその信仰は根強いものがあるといいます。 いよいよ参道を行きつめると・・・ 随神門(ずいしんもん)に着きます。立派な装飾と色合いは秩父地方の神社に多く共通しています。 ここにもオオカミ。 ややデフォルメされたあばら骨が、狛犬替わりの石造オオカミの特徴です。 上の写真は「神田市場講」とありますので、東京の講でしょうか? (つづく)
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